ニュージーランド(NZ)への中古車輸出を行っている事業者の間で、最近とある懸念が広がっております。
今年(特に6月頃)から、NZTA(ニュージーランド交通局)の基準に基づく「ダメージフラグ」が立つ車両が急増しているという情報に、懸念や戸惑いを感じていらっしゃる方も多いかと存じます。
「なぜ急に厳しくなったのか?」
「NZTAの体制にどのような変化があったのか?」
このような疑問にお答えするため、収集した情報を基に、現状の背景と実務上の影響、そして今後の対策について解説いたします。
フラグ急増の背景にある「3つの変更点」

結論から申し上げますと、このフラグ増加は、NZTAによる検査基準の厳格化と、監査体制の強化が直接的な原因です。
具体的には、以下の3つの大きな変更点が確認されています。
1.NZTA監査員による「定期監査」の強化
以前からNZTAの検査員は、日本国内の各検査会社のヤードに対し、定期的な監査を実施しておりました。
当社の情報によりますと、この監査がより厳格に運用されている模様です。
- 監査頻度: 約2ヶ月に1回ほどのペースで訪問。
- 監査内容: 1日の監査で約20~30台の車両をチェックし、検査会社の検査結果がNZTAのフラグ基準と合致しているかを監査。
- 影響: 基準と異なる判断がなされた車両は訂正が求められ、次回の監査までに是正が指示されます。もし是正が実施されない場合、監査の頻度が高くなる、マニュアルの改訂を指示されるなど、検査会社側の業務負担が増大します。
このため、各検査会社はNZTAの基準に厳密に準拠せざるを得ない状況となっています。
これまで比較的緩やかな基準で運用していた検査会社も、基準を厳格に適用するようになり、結果としてフラグの件数が飛躍的に増加している一因となっています。
2.VIRM(車両検査要求マニュアル)基準の根本的な変更
今年5月5日付で、NZTAのVIRM(車両検査要求マニュアル)におけるダメージ報告の基本方針が、従来と真逆と言える内容に変更されました。
- 従来の方針: “IF IN DOUBT, DO NOT REPORT THE DAMAGE” (疑わしきは、ダメージを報告しない)
- 新しい方針: “IF IN DOUBT, REPORT THE DAMAGE” (疑わしきは、ダメージを報告する)
この変更により、検査員が「これはフラグ対象か否か」と判断に迷うような軽微なダメージについても、原則としてフラグを登録することが必須となりました。
これが、フラグ件数全体の底上げに直結しています。
(参考リンク:NZTA Regulatory Services Communication)
3.「抜き打ち再検査システム」の導入と厳格な運用
上記の定期監査や基準変更に加え、より実務的なプレッシャーとなっているのが、「抜き打ち再検査」の本格導入です。
6月24日にはNZTA監査員が検査会社を訪問し、この新しい再検査システムと運用開始について説明が行われました。
その内容は以下の通り、非常に厳格なものです。
- 頻度:月1回
- 対象:出荷前完成車の約10%をランダムに抽出し、再検査。
- プロセス:
- 再検査でフラグ対象となるダメージが発見された場合、検査会社の記録と突合。
- もし検査会社がフラグを立てていなかった場合(=未フラグ)が判明すると、その内容は記録・カウントされ、NZTA本部に報告されます。
- 同種の不備(未フラグ)が3ヶ月連続で発生した場合、ペナルティとして該当の検査会社は全車両の再検査が義務付けられます(費用は検査会社負担)。
- 再検査でフラグ対象となるダメージが発見された場合、検査会社の記録と突合。
このように、NZTAは「基準の変更」と「厳格な罰則付きの抜き打ち検査」を組み合わせることで、日本側での検査基準遵守を徹底させています。
NZTAの狙いは何か?

では、なぜNZTAはこれほどまでに厳格化を進めているのでしょうか。
監査官チーフへのヒアリングによれば、背景には大きく二つの理由があるとのことです。
※AUTOHUB調べ
1.NZ到着後の検査効率化
従来、日本側でフラグが立っていない車両でも、NZ到着後の再検査で細かなダメージが発見され、その確認に多くの時間を要していました。
新しい方針(疑わしきは報告する)に基づき、日本側でフラグが適切に登録されていれば、NZ側は全体を再検査するのではなく、フラグ箇所をピンポイントで効率的に確認できます。
その上で、適切なリペア痕などが確認されれば、コンプライアンスセンターで問題視されることはない、との説明でした。
2.NZ国内での消費者トラブル(キャンセル事案)の増加
これが最も大きな理由と考えられますが、日本側で「判断に迷った」という理由でフラグが登録されなかった車両が、NZ到着後のNZTA検査(コンプライアンスセンター)によってダメージを発見され、キャンセルに至る事案が増加していました。
さらに、キャンセルされた車両が長期間放置されるといった問題も発生しており、NZTAとして消費者保護とNZでのトラブル回避の観点から、日本側でのダメージ報告の基準を厳格化する必要があった、とのことです。
実務上の影響と今後の対策

今回のNZTAの方針変更は、一時的なものではなく、今後もこの厳格な基準が継続するものと考えられます。
この現状を踏まえ、輸出に携わる関係者の皆様は、以下の点にご留意いただくことが推奨されます。
1.日本側で登録されたフラグの取り扱い
監査官チーフによれば、日本側で登録されたダメージフラグは、NZTAの方針上「削除してはならない」と明確に決められているわけではないものの、実際にはほぼ削除されず、そのまま残るケースが大半である、とのことです。
安易なフラグ削除の依頼は、NZ側でのコンプライアンス違反に問われるリスクがあります。
2.仕入れ時の車両状態の確認徹底
「疑わしきは報告する」という新基準が適用されている以上、従来は見逃されてきたような軽微なキズや凹み、補修痕などもフラグ対象となる可能性が非常に高くなっています。
車両の仕入れ時には、これまで以上に厳密な車両状態の確認が求められます。
3.現地バイヤー様・お客様への丁寧な説明
最も重要なのが、NZ現地のバイヤー様やお客様への情報共有と理解促進です。
現地での検査基準が厳しくなったわけではないので、軽微なダメージでのフラグが外される可能性もあります。
「最近フラグが増えた=品質が落ちた」のではなく、「NZTAの新方針に基づき、軽微なダメージも正直に報告するようになった結果」であることを丁寧に説明し、ご理解をいただく必要がございます。
これは、NZ国内の消費者トラブルを未然に防ぐというNZTAの意向にも沿うものであり、透明性の高い取引は、長期的な信頼関係の構築に繋がります。
まとめ
NZTAによる一連の厳格化は、NZ国内の検査効率化と消費者保護を目的としたものであり、日本側の検査会社は厳格な対応を迫られています。
輸出に携わる事業者としましては、この変更を的確に把握し、仕入れから現地のお客様へのご説明に至るまで、サプライチェーン全体で連携して対応していく必要がございます。
今回の厳格化は、特に「仕入れ段階」での車両状態の正確な把握が、従来にも増して重要になったことを意味します。
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